蓮池透さんの『拉致』を読んで
かもがわ出版から出版された蓮池透さんの『拉致-左右の垣根を超えた闘いへ』を読み、さまざま考えさせられることがありました。蓮池さんがこのごろ、『家族会』などと距離を置いていることは承知していましたが、いろいろなことがあったようです。私自身、拉致問題には強い関心がありつつ、「なにかできることがあるなら」とも思いつつも、 手を出さないような感覚にとらわれることがままあります。北朝鮮という国家についていえば、全く幻想をもっていませんし、『社会主義』を名乗ってはいますが、迷惑このうえないとう感覚です。日本共産党が、朝鮮労働党と長く絶縁していることも、多くの方が知っています。
それでも、対決一辺倒、制裁一辺倒の世論が国内には強いようです。「国際的な共同した行動を」「対話を重視し、道理ある主張を堂々とする」という共産党の考えが、国内でなかなか大きな支持を得ていないのではないか、共産党としても拉致被害者との意見交換などもしたらいいのではないか、などと思うことが、ないわけではありませんでした。
蓮池さんの著作に貫かれているのは、経済制裁一辺倒の今のスタンスで、拉致問題が完全に膠着していること、なんらかの対話のチャンネルを開くために、大胆な方針転換をはかるべきということです。当事者として家族会の取り組みに長くかかわってきただけに、説得力があります。また、弟さんの帰国から様々な方との交流も通じて、過去の自分の発言についても真摯に向き合っていることにも、強く感動しました。視野の広さとバランス感覚を感じます。
一番の議論は、政府はときには家族会や救う会と距離を置いても、解決のための戦略をもって北朝鮮と交渉すべきではないかという主張でしょう。救う会の中には、北朝鮮そのものを敵視し、その打倒を主目的とする勢力もあると書いています。時として、そうした流れが広がり、拉致被害の解決というよりは、制裁のための制裁に陥っているのでないか。制裁一辺倒の議論が政府に大きな影響を及ぼし、結果として「事態の膠着・にらみ合い」を長期化させてしまっているのではないか。被害家族の方の考えを尊重に、ともに手を携えることは当然のことです。しかし、それでは足りないし、事態を解決できないと考えておられるのでしょう。
あわせて、蓮池さんの場合、弟さん一家の帰国はできました。しかし、多くの被害者がまだ北朝鮮に残されています。弟さんが「自分達だけ帰ってきて、忍びない」と語ったくだりが、強く印象に残りました。もちろん、それぞれの家族について詳細を知っているものではありません。家族会の中にも、様々な意見があることでしょう。
そのことも含め、ぜひみなさんにも読んでいただきたい本だと思います。
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